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失われた天秤の物語

憎しみを測り合う一対の天秤があった。
 それは元々一つの存在だったが、互いに憎しみ合い、傷つけあう事を目的として二つに分けられた。
 何かのために奪い合うのではなく、奪い合う事自体が目的だった。
 いつまでもそれが続くように。
 それは彼らを創りし神からの命令、使命だった。

 死んでは生まれ、繰り返される憎しみは、お互いの姿も形も、心も遠ざかり、
 ふたつは別々の存在になっていった。
 そして擦り切れてそのうち消えてしまうのかもしれなかった。
 左皿が急に消えてしまうまでは……。 消えた天秤の左皿は蝋燭になっていた。
 右皿は左皿を探し回ったが、それは永遠に失われていた。
 その代わり蝋燭に出会った。 それは左皿だったものだったが、全く別の存在だった。 しかし出会った蝋燭もまた、右皿と同じく、神を失い、役割を無くしていた。
 右皿と蝋燭で、左皿をもう一度探そうと旅に出るのだった。