風のように気まぐれで、行方も知らない蝶々は、まるで切り札のように、
滑稽を演じながら、全能のようにふるまった。
彼は彼の物語にならない限り無敵で、誰かの物語をめちゃくちゃにする。
だけど彼、きっと忘れてはいないだろう。
彼は本当は、もういない王の王冠を、その頭にかぶらなきゃならなかったってことを!
だから彼はいつも魔女に狙われているんだ。
彼の魔女の古き名は、王者の右腕。
燃える炎のさらに熱い場所、その青い炎のような王の傍に彼女はあった。
王はいつまでもその熱い輝きを忘れないためにもう一人の自分を作った。
その右腕にも君はなれるように、そう務めてくれと王は彼女に託した。
しかしもう一人の自分に魂を移し忘れてしまった王は、そのまま死んでしまったのだ。
何も知らないもう一人の王は、自由気ままな蝶々になった。
彼女は仕方がないので魔女になったが、これが案外楽しかったそうだ。
蝶々は不規則な動きでどこかに羽ばたく。魔女は蝶々を追いかける。
蝶々は気が付くのだろうか、己の上にある透明な王冠の存在に。
でもそんなことは、魔女にとってはもうあまり重要ではないかもしれないが…。