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蝋燭と杯

 暗闇の中に蝋燭があった。

 蝋燭のそばには杯があった。

 杯の中には酒がある。

 蝋燭は自らの光でその酒を照らす。

 杯はそれをひどく不愉快に思う。

 なぜならその酌まれた酒は、ただの水である可能性があるからだ。

 杯は、その正体を見破られることをひどく恐れいていた。

 蝋燭は言った。

「もしそれが水だとして、そうしたらその水で僕の炎を消せばいい。そうすればそれが水だと知った僕はいなくなるだろう?」

 それを聞いた杯はこう言った。

「そうしたとして、それがもしも酒ならば、お前は更に燃えるだけだろう?ここが空になるだなんてごめんだね」

 それを聞いた蝋燭は黙って揺らめいた。

 杯の中に酌まれたものは、水か、酒か。

 その正体を杯自身も知らなかった。

 杯の中身を蝋燭にこぼせば、その正体は明らかになるだろう。

 しかし二つは暗闇の中でじっと黙り、どちらの可能性も試すことなく、ただ存在していた。